打ち手と挽き手の職人同士が話し合って
作り上げた唯一無二のそば粉
―カガセイフンとの付き合いは20年以上にはなるそうですね
二代目・喜代美さん
私の父(初代)が、カガセイフンさんに山楽亭オリジナルのそば粉をお願いしたのがはじまりです。平成12年ごろ(2000年)、初代が機械製麺ではなく手打ちで蕎麦を提供したいと方針を変え、そば粉を手に入れるため県内の製粉所を回りました。カガセイフンさんを訪問した時、当時の社長(現・会長)が、それはそれは丁寧に、親切に対応してくださり、「ここにしよう!」と決めたんです。私もその場に同行していましたが、当時の社長の対応の良さは忘れられません。初代の決断に賛成しました。
―そば粉のこと、蕎麦の味はどのように決められたのですか?
二代目・喜代美さん
最初は初代もいろいろなそば粉を試したみたいです。福井県産がいいことは分かっていて、中でもカガセイフンさんがいい、一番打ちやすく、おいしく仕上がる、と。あいにく初代は急な病気で亡くなりましたが、私も三代目の息子も蕎麦打ちの技術を引き継いでカガセイフンさんのそば粉だけで蕎麦を打っています。
初代は、何度もカガセイフンさんの工場へ行き、社長(現・会長)と話し合っていたみたいです。「粗さを調整してほしい」「もっとこういうそば粉がいい」と細かく伝えに通っていましたね(笑)。
加賀
山楽亭さんのそば粉を仕上げるための、専用の挽き臼があるんです。特定の臼でなければ製粉できないもので、正直とても生産が難しいそば粉なんです。私も会長から指示をされたときに「なんて細かい条件のそば粉なんだろう」と長年不思議に思っていました。なるほど、私の父と喜代美さんの父とで作り上げたそば粉だったんですね。謎が解けました。
そば粉の扱い方は、手と体が覚えている
初代の打ち方が山楽亭の礎に
―蕎麦店をしていると、他県他産地から売り込みや、大きな製粉会社からの取引の問い合わせなどがきませんか?
二代目・喜代美さん
問い合わせが来ても話になりません。ずっと同じそば粉でやってきたので、この手がカガセイフンさんのそば粉に慣れているんです。手が覚えてしまったようです。(笑)。初代からは「蕎麦打ち、そば粉の味を変えるな」と言われていますから、他のそば粉でやってみたいということは思いもしません。
加賀
ひとつだけ変わったとしたら、福井県産という大きなくくりから最近では永平寺町産に限定して、できるだけ地元永平寺町産のソバで製粉しています。ただしご希望のそば粉のレベルがありますから、山楽亭さんの注文通りのそば粉になるように福井県産をうまく調整をしてそば粉にしています。
二代目・喜代美さん
そうだったのですね。永平寺で永平寺町産の蕎麦が食べられるのは、お客様にもアピールになります。そば粉の袋を開けると風味が広がり、丁寧な製粉をされているんだなとすぐにわかります。
―三代目・将さんは26歳と若いです。すでに蕎麦打ちをされているようですが、若くして跡を継いだことについて、お話いただけますか?
三代目・将さん
動物が好きなのでトリマーになろうと高校卒業後は関西で過ごしました。ただ、母と祖母が忙しい中二人で店を切り盛りしている状況を知り、早めに戻ろうと決意しました。20代の僕が蕎麦を打ち始めたら注目度も高いだろうし、なにより上達が早いだろうと思ったからです。いつかは跡を継ぐと決めていたので。打ち方は母から教えてもらいました。そば粉はカガセイフンさんしか使ってないので他のそば粉では蕎麦を打てないですね。(笑)
―どのようなサイクルで蕎麦打ちをしていますか?
三代目・将さん
早朝、打ち場に立ってその日の分を打ちます。観光シーズンは明け方、いや夜中かもしれません。それくらい量が出ます。ここは店の前を観光客が通り観光バスの往来もあるので、時間帯によってはとても目立つんです。ガラス張りなので外から蕎麦打ちをしているのを見ることができるから、蕎麦打ちをしているとお客様が見に来られて、会話にもつながります。
―カガセイフンとの取引で助かっていることはありますか?
温度がわかるシールですね。良い状態でそば粉を保管したいのでとてもありがたい。もうひとつは新しいそば粉を持ってきてもらえることです。県内の製粉会社と取引している利点だと思います。若い層に蕎麦のおいしさを知ってもらいたい山楽亭を知るお客様が蕎麦の味をつないでくれる
―初代から教えられたことは何ですか?
二代目・喜代美さん
「初心忘るべからず」でしょうか。自分が上手いとは思わずにいること、だと。
三代目・将さん
そば粉も蕎麦打ちも教えられたとおりに変えないことをモットーにしています。といってもひとりひとり手の温度が違いますし、季節、気温、室温で打ち方を変えています。その日によって普段の工程を変えることも教わりました。山楽亭の蕎麦の味に変わりはありませんが、私と母でも打ち方の癖は若干違います。
―どのようなときに蕎麦打ちの喜びを感じますか?
三代目・将さん
「この蕎麦おいしいね!」とお客様からの声が聞こえたときですかね。「蕎麦らしい蕎麦を食べた」と感動される方もいます。二代目・喜代美さん1年に1回、あるいは数年に一度とはいえ墓参りに来られたご家族が入店されて「ああ、いつものと変わらない味だ」とおっしゃいます。これは私たちのとっての誉め言葉です。
―コロナ禍において考えることも多かったと思います。参拝客、観光客が集うお店ですがこれからどのような展開を考えていますか?
三代目・将さん
そば粉も蕎麦の味も変えないけれども、新メニューを取り入れて展開して新しいお客様を増やしたいです。蕎麦打ちをするようになって、私も食べ歩きというか情報収集をしています。ジャンル問わず店へ行き、いいところは味も空間も取り入れて整えていこうと。
二代目・喜代美さん
昨年に座敷から椅子席に改装して、照明も変えて一新しました。私から三代目に教え、伝え、早めに任せたいと思っています。もちろん私が元気なうちは一緒に蕎麦打ちをしますけどね。
加賀
弊社も現在、新しい工場にリニューアル中です。製粉したてを常に最高の状態で保てるように、空調を整えます。福井県100%の生産体制に特化して、細かな挽きの注文にもこたえられるようにします。
女将・悦子さん
頼もしいですね。カガセイフンの社長が頑張る姿は、私たちにも励みになります。さあ、取材が済んだら、自分のところで挽いたそば粉で打ったおいしい蕎麦を食べていって。