ロンシン製粉所(Minoterie de Roncin)視察の後半は、フランス・ブルターニュで昔から栽培されている在来種と福井の在来種を見比べながら栽培から製粉、苦労話について情報交換させていただいたことと、ロンシン製粉所を始めとするフランス国内で昔から使用されていた石臼について紹介していきます。
▲ロンシン製粉所Jean-julien Genest(ジャン=ジュリアン ジェネス)社長
テーブルには、ブルターニュ地方で昔から栽培されている在来品種「ラ・アルプ種」と「ジタ種」、そして「福井在来種」を並べて日仏そばサミットを始めたのですが、時間にして2時間は超えているでしょう。専門家同士の話し合いはとても熱く、止まりませんでした。
まず「ラ・アルプ種」は在来というだけあって2.8mm~3.2mmくらいの小粒が多く、粒が膨れていて皮の色がグレーがかった濃茶色。容積重があるからズシッと重みがあって福井在来にとても似ています。数粒食べてみるとナッツに似た香ばしさとほんのりとした苦み。これは日本と違って乾燥歩合が高く、含水率を4%近くまで下げているからであって、日本と同じように14%前後で低温乾燥させて石臼でじっくり製粉すれば、風味豊かで味の濃い蕎麦が味わえるのではないかと思いました。
一方の「ジタ種」は全体的に4.5mm以上の大粒が多く、歩留りが良いのが特徴だそうです。皮の色は濃茶色で日本のキタワセにそっくり。そのまま食べてみると「ラ・アルプ」よりも味・香りともにさっぱりしていて最後に香ばしさが舌に残ります。
フランスではソバは基本的にガレットに使用され、パリ市内のスーパーでも小麦粉と同じように陳列されているほど、フランス国民の食文化として浸透しています。そのため焼いた時に香ばし香りが立ち、長期保存にも耐性を持たせるために原料の段階で含水率を10%以下、そば粉の製品になった時点で4%以下にしているそうです。なので、玄そばを食べ比べても日本人の感覚で言うところのそばの香りとは違います。逆にジャン社長からしてみれば、おそらく福井の在来種の味わいや香りには違和感があったと思います。
ラ・アルプ種を原料に機械製粉(ロール製粉)したそば粉。左から皮粉、内層粉、外層粉。
日本のように更級そばや田舎そばがあったり、打ち粉を取るという事自体がないので、1番粉~5番粉、末粉というように細かい挽き分けというのはせず、大まかに3タイプの粉を連続して製粉し、
顧客が指定するそば粉にブレンドするそうです。
100年近く前までは実際に使用していたという石臼。
日本の石臼とは大きさも石材も目の立て方も全く違います。
石自体は気泡が多くみられ硬質で、透明な結晶体もかなり含まれていました。風化して切り目がだいぶ飛んでいますが、内側と外側で目の角度が異なっています。おそらく、そこそこ早い回転数で石臼を回して内側でソバの実を挽き割り状に、外側で一気に粉砕していくのでしょう。この石臼を見る限り、日本のように製麺効率を考えてそば粉に粘りを引きだすとか、じっくり細かく粉砕するということは関係なく、あくまで「穀物を粉にする」という使い方だと思います。当然、この臼では1回や2回通しても完全には挽ききれないので、粉になるまで連続して通して行ったのではないかと想像します。
どれくらい使用され続けてきたかは分かりませんが、石臼の厚みは20センチ弱。重さは下臼だけで300㎏近くあるでしょう。こんな石臼が回ってる光景ってどんなんでしょうね。考えるだけでワクワクしますし、どんな摩擦音が響いていたのか妄想は止まりません。
フランス国内に存在する製粉工場はほとんどが機械製粉で石臼製粉を守っているところはわずかしかないそうです。しかし、機会があればぜひ見てみたいものです。
昔は工場横にあるこの川で水車を回し、動力を得て石臼を回していたそうです。なのでフランスの製粉工場はこういった川沿いにあることが多いそうです。弊社も創業当時は工場前の水路で水車を回していたので、国は違えど同じようなことをやってきたんだなーと感慨深くなりました。
それにしても2月のブルターニュは寒いです。
雪がないので暖かそうに見えるかもしれませんが、気温は日本よりずっと低くて手が悴みます。でもこの環境によってブルターニュの在来そばが育まれ、この場所で製粉されるからこそ本場フランスのガレットがあるだと思うと、地球の裏側からブルターニュにやってきて良かったなと思いました。
▼弊社ホームページにて詳しくご紹介しております。
その①:【玄そば生産農家紹介】Minoterie de Roncin (ロンシン製粉所)を訪ねて (フランス・ブルターニュ)
その②:【玄そば生産農家紹介】Minoterie de Roncin (ロンシン製粉所)を訪ねて (フランス・ブルターニュ)
このブログでは、福井のそば粉屋として専門的な分野から、プロの話や技術、製法、栽培に関してなどをご紹介していきます。ガレット店の紹介や文化、観光に関しては以下のブログをご覧ください。
▼本場のガレットを求めて‐フランスブルターニュ訪問記