ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。│ガレット(Galette)に触れるフランス視察④

フランス3日目はブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価をいただくイベントがパリ市内のLa Maison du Saké(ラ・メゾン・ド・サケ)にて行われました。

クレーピエ(クレープとガレット専門の料理人)は、アンジェ市にあるクレプリー・デュ・シャトー(Crêperie du Château)店主のル・フィション氏。始めて使っていただいた福井県産ガレット用そば粉と慣れ親しんだフランス産そば粉の違いやそれぞれの良さをガレットのプロという視点からお話をお聞きしました。

▼ル・フィション氏(クレプリー・デュ・シャトー Crêperie du Châteauオーナーシェフ)
ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。

加水前/後でそば粉の表情が全く異なる

今回、比較していただくそば粉は、弊社製造の福井県産 越前ふくいガレット粉【KS】、もう一つはブルターニュにあるファティゲ製粉所製造のブルターニュ産そば粉。どちらも古くからその土地にある在来種で無農薬栽培、皮付きのまま石臼で製粉した全粒タイプのそば粉です。

粉の段階で比較した所感は、越前ふくいガレット粉は細かくゆっくりじっくり製粉しているので粒子が細かく、福井在来の粘りと香ばしい香りが感じられます。一方、ファティゲ製粉所のガレット粉は、さらさらとした手触りで粒度も割と粗く黒い皮もしっかり確認することができ、粉の色だけを比べると福井県産の方が黒い。

しかし加水して数日間熟成させた生地を見てびっくり!左のステンレス容器が福井県産越前ふくいガレット粉【KS】を使った生地。右のプラスティック容器がファティゲ製粉所製造のブルターニュ産そば粉を使った生地。色の濃さは福井県産の方が黒く出ると思っていたのですが、粉の段階でここまで発色するとは想像できなかったので驚きました。

実はこれにはいくつかポイントがあります。

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。

硬水と熟成(発酵)がガレットのポイント

発色(色の濃さ)やパリッとした食感は、「水と熟成(発酵)」が重要なポイントでした。
フランスは硬水です。先日、そば打ちで硬水は日本そばにはちょっと厳しいというお話をしましたが、実はガレットにはこの硬水がいい仕事をするようです。一つはそば粉の粘りを引きださないという点。サラッとした生地ができるので、高温でサッと焼くとパリッとした食感が出やすくなります。もう一つは熟成(発酵)。硬水に含まれている石灰分がそば粉の色を十分に発色させる働きがあるようです。そば打ちする場合、この石灰分が香りや旨み、それから作業性を良くしてくれる粘りの働きを著しく抑えてしまうようです。

なので、以前、日本で外国のお客様から「ガレット粉がなかなか発酵しないのですが、どうしたらいいですか?何か方法はありますか?」という質問に答えられず、発酵させる意味が分かりませんでしたし、発酵させるとどういう効果があるのかも知らなかったので、今回、その答えがはっきりと分かりました。水の違いなんて日本でいくら調べても分からないはずです。

ちなみに、ここでいう熟成(発酵)とは、黒く発色させて滑らかな生地にするということです。
熟成期間が長くなると全体に気泡が生まれ、焼いた時にポツポツと細かい穴が開くようになります。熟成の目安は1日~3日。まず、全体の半分の水をそば粉に加え、固めの生地の状態で冷蔵庫で寝かせます。好みの熟成具合になったら、焼き上げる直前に水を足して調整します。熟成させすぎると酸が出て劣化が始まりますので、そこの見極めは必要ですね。

こちらがファティゲ製粉所のブルターニュ原産石臼挽きそば粉(マクロビオ)。
スーパーに並ぶ事はなく、フィション氏もこのそば粉に出会い取引してもらえるようになるまでかなりの年月を費やしたそうです。フランスの製粉所ではほとんどが機械製粉という中でこのファティゲ製粉所は数少ない石臼製粉専門のメーカーで見学を希望する観光客も多いのだとか。

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。

ガレットパンの温度と食感

本場のクレーピエの仕事を間近で見れるなんて最高の経験です。
鉄板の温度は300℃に設定し、生地を流した時に270℃前後に落ちるくらいがガレットを焼くには良い温度帯だそうです。生地が薄いところはすぐに焦げ付いてしまいますが、高温度帯で一気に焼き上げることによりパリッとしたサクッとした食感と香ばしさが際立っていました。

日本では電気式ガレットパンの場合、電圧の関係で230℃~250℃までしか熱くなりませんので、焼きあがりまでモノによっては10分くらいかかり香ばしさもフランスのガレットに比べると弱いかもしれません。フランスに来るまではこの食感と香ばしさの違いが分かりませんでしたが、直接、間近で見れて感じられたことは大きな収穫でした。

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。

フィションさん直々にガレットのレクチャーをしてくださいました。
日本では何度かガレットパンでガレットを焼いたことがあるので、何となくできるかなと思っていたんですが、生地の粘度というか抵抗がやっぱり全然違ってて、1度や2度でできるものではなかったです。ただ、フランス産はさらりとしていて生地が広がりやすかったです。ロゼルに指を添える程度の力加減で十分広がってくれるという感じ。

フランス・ブルターニュ産と福井県産の評価

2種類のガレットを前にイベントに集まってくださったプロの方々たちがフランス産そば粉の良さ、福井県産そば粉の特徴など色々な意見交換をしてくださっています。その中から”フランス産そば粉よりも優れている”とお褒めいただいた、「福井県産そば粉の良さ」をいくつかご紹介します。

▼ル・フィション氏より
・福井県産そば粉にはフランス産にはない独特の粘りがあり扱いやすい
・一度ガレット用のタネを作ると、よい状態でとても長持ちする
・福井産そば粉のガレットはフランスのガレットとクレープの中間くらいの感覚
・福井県産そば粉は食べた後に苦みと酸味が感じられ、焼き方によってはフランス産より香ばしさが出る

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。
▼ペテル・ルモニエ氏(コントワール・デュ・コメルス(Le Comptoir du Commerce)オーナーシェフ)
・ブルターニュ地方のガレットはちょっと大味な感じだが、福井県産そば粉のガレットは私が食べたことのないような繊細な味がした(オリジナルな味、インパクトがあった)
・フランス産に比べると香りがよく、これは品種の違いというよりソバの挽き方の違いによるものと思う
・福井県産そば粉はタネを作るため混ぜたり練ったりする作業がしやすい
・驚いたのは保存に耐えられるという点。まとめて保管しておく場合に向いている

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。
▼シェフのロマン氏とパティシエ杉山氏(アクサン(Accents Table Bourse)
・フランス産のガレットは特にまわりがパリパリしているが、福井県産は粘りがあって柔らい(粘りというよりソフト)
・カガセイフンのガレット粉は、フランスの小麦粉とガレット粉との中間くらいな印象
・フランス産よりテクスチャーが細かく、調理しやすい
・フランス人にとってそば粉は「ガレット」以外にはイメージがしにくいが、今回のそば粉はニョッキにするとぐっと味が前面に出る
・牛乳と合わせるとすごく「そば」を感じ、福井県産のほうが香りも味も濃く強くでる印象を持った
・カガセイフンさんが作られた福井県産「そば茶」は飲料としても食材としても試してみたい味

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。
最後にイベントに携わってくださったプロの料理人たちと写真を撮らせていただきました。

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。
その様子が日刊県民福井に掲載いただいたようです。

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。
また数日後、今回お世話になったクレープリーにて弊社のガレット粉を使ったガレットをご提供いただきました。

ガレット(Galette)に触れるフランス視察④:ブルターニュ産と福井県産のそば粉を使ったガレットの試食と評価。

▼弊社、納入事例にもご紹介させていただいております。
【そば粉の納品事例】Crêperie du Château(クレプリー・デュ・シャトー)様/Anges,France

今まで、「フランス産のそば粉の取り扱いはありませんか?」というお問い合わせを何度かいただいてきて、ガレットに使うそば粉はなぜフランス産がいいのか?そして、なぜ国産では満足できないのか?フランス産は福井県産に比べてどこが優れているのか?という事を考え続けてきました。
日本ではそれこそ東京に行けば、世界中から取り寄せられた各国の料理が食べられますが、本当に美味しいものを食べようと思うなら現地へ行って食べるのがベストです。現にフランスではパリだろうが田舎町だろうが人気店は遠方からでも人が来るし、繁盛もしています。価格も田舎だから安いということはありません。

今回のイベントでお世話になったシェフの方々のお話から得たことは、
①環境が違うと本場の素材を取り寄せても新しい価値は生まれるかもしれないが本場の味にならないということ。
②作りたい料理に合わせて、その場所(国)で手に入る新鮮で良い素材を選ぶことが最も重要だということ。
③同じ素材でもそれぞれの特性を見極めて自由な発想の基に必要な調理を行うことが料理人の腕の見せ所

ということです。
ブルターニュへ行く前にすでにたくさんの勉強をさせていただき、感無量でした。
この経験を必ず日本で生かしていきたいと思います。

▼Accents Table Bourse
24 Rue Feydeau, 75002 Paris
01 40 39 92 88
accents-restaurant.com

▼Crêperie – Le Comptoir du Commerce
1 Rue des Petits Carreaux, 75002 Paris
01 42 61 57 56
www.comptoirducommerce.com

▼Crêperie du Château
21 Rue Saint-Aignan, 49100 Angers
02 41 88 53 87
www.facebook.com/pages/La-Crêperie-du-Chateau/362170970529140


このブログでは、福井のそば粉屋として専門的な分野から、プロの話や技術、製法、栽培に関してなどをご紹介していきます。ガレット店の紹介や文化、観光に関しては以下のブログをご覧ください。
本場のガレットを求めて‐フランスブルターニュ訪問記

加賀 健太郎 について

年間100店以上の蕎麦店を食べ歩き/蕎麦を食べてソバの挽き方を考える/ミシュラン星付き店へのそば粉納品事例多数/自社で開発した福井県産そばのガレット粉を本場フランス・ブルターニュでプレゼン/出張先では「体のどこを切っても蕎麦が出てくる」くらい蕎麦を食べ歩く ■ブログ→ http://kaga-seifun.com/sobako/
カテゴリー: ガレットの本場‐フランス・ブルターニュ視察 タグ: パーマリンク